東京高等裁判所 昭和29年(う)1704号 判決
被告人 桜井舜
〔抄 録〕
一、論旨第二点及び第四点について。
本件記録中に存する任意提出書及び領置調書の記載によれば、押収にかかるジヤツクナイフは、被告人自身の所有物であると認められるから、原判決が刑法第十九条によつてこれを没収したのは正当である。原審第一回公判調書中には、被告人の供述として、右ナイフは本件犯行の前夜路上で拾得したものであるという記載があるが、右は当裁判所の措信し難いところであるから、これを採用しない。所論は右拾得の事実を前提とし、他に所有者があると主張するのであるから既にこの点において失当である。
次に原判決は、右没収言渡の根拠として刑法第十九条とのみ判示し、同条第一項第何号に基くものであるかを明示していないことはまことに所論の通りであるが、刑法第十九条に基いて沒収の言渡をするには、適用法条として第十九条と挙示しただけで足り、同条第一項第何号に基くかまで明示する要がないと解するのを相当とする。而して原判文を通読すれば、原判決で没収したジヤツクナイフは原判示傷害行為の供用物件であることが明らかであるから、原判決は刑法第十九条第一項第二号に基きこれを没収したものであることが窺われる。従つて原判決には所論のような違法はなく、論旨はいずれも理由がない。
一、論旨第三点について。
累犯加重の原因となる前科の事実は、所論のように、刑の加重原因たる事由に該当し、犯人の刑事責任を決定するについて、重要なことがらであるから、これを認定するに当つては、必ずや適法な証拠調とした証拠に基いてなされなければならないのは当然である。けれども、右の事実は刑事訴訟法第三百三十五条にいわゆる「罪となるべき事実」それ自体ではないから、これを認めた証拠の標目を判決に挙示することは必ずしも必要ではないというべきである。これを本件の場合にみると、原判決は、「被告人は昭和二十三年四月二十三日静岡地方裁判所において、窃盗横領、強盗罪により、懲役五年(該刑は昭和二十七年政令第百十八号により懲役三年四月に減軽さる)に処せられ当時その執行を終つたものである」と判示するのみで、右前科の事実を認めた証拠を掲げていないが、原裁判所において適法に証拠調手続を履践した、被告人に対する前科照会竝びに同回答書の記載によれば、右前科の事実を肯認することができるから、叙上のような理由により、原判決には所論のような違法の点は存しない。なお右前科の罪名につき、被告人は単に強盗罪とのみ供述しているが(原審第一回公判調書の記載)、前掲前科照会竝びに同回答書の記載によれば、原判示罪名が正確であることが明白であるから、この点に関する所論もまた採用し難い。論旨は理由がない。
註 本件破棄は量刑不当。